Philippe Nault Abstract Painter

フィリップ·ノールト(Philippe Nault) は、第二次世界大戦後の新「エコール·ド·パリ」の時代が始まったころにフランスで生まれ、十代のころから絵を描き始めた。彼の本来の文化的環境では形象的表現が大きな特徴で、その後抽象芸術に進展していく前の彼の作品は、純粋に再現描写の絵画であった。

ノールトは芸術を自分のキャリアとしての戦略として追求せず、宇宙論や精神性への関心に突き動かされて故郷を離れ、別の土地の文化や神話などへの探索に拡大した。このことが、事物そのものの風景としての世界、という深奥の構想の形成に最終的に役立った。彼の独特な人生行路は、キャンバスの上に作品として変換されて描かれ、50年という期間を経る中で数を増やしていった。

パリ、ロンドン、ニュー·オーリンズで成功を収めた後、最終的にハワイに落ち着いた。ハワイでは太平洋の人々の先祖から伝わる存在論を学んだが、それは、自然界とつながる重要な連結器として、感覚知能を有利に働かせるものだった。ある意味これは、自然の感覚による認知と結びつけられた物事の正当化、という通常を回避することを好むノールトの傾向を強調したものだった。自然の発声や笑いのありのままの音、イメージの生のパターン、そしてそれらの純粋で根本的な潜在力が現れる。

これは、自分たちが定義した限界範囲でしか現実が認知されない平凡な世界を巧妙に避ける本能的な方法で、そして論理的な認識から思い切って外に出る方法であった。これはまた、ノールトの抽象芸術作品の探索の集約でもある。

ノールトの最近の作品 (2016-2021年) はこうした3方法に基づいた、テル (Terr) 、茶碗の風景 (Chawan Landscapes) 、クムリポ (Kumulipo) という3つのシリーズから成る。

テル

「テル」 (Terr)とは地球、または土という意味のラテン語の語根である。英語のテレイン(terrain、地域)やテリトリー(territory、領土)という言葉の語源であり、フランス語のテロワール(terroir、土壌)の語源でもあり、特定の土地の確固たる記憶を生き生きと呼び起こし、ある環境において共存する自然を特徴づける意味がある。

そしてこれが、2021年1月に火山島ハワイで開始した、その土地の土を主な創作材料とした作品のシリーズの名前となった。                        

原料のままの、加工していない土を塗料として使おうという衝動は、木枠に貼られていないキャンバス画布や紙を、島の熱帯雨林の溶岩大地の自然そのままの形状の上に直接置いて作品に取り組んでいた中から、本質的に沸き起こったと言えよう。

ハワイ諸島の島の誕生の話は、土がはっきりと伝える。火山学でホットスポットと呼ばれる場所で、マグマが動き地球の地殻から噴火し、何百年もかけて世界最大の海中山の列島が形成された。

「テル」シリーズで使われる土は、ハワイ島の3つの特定の場所、キラウエア火山のシダの森、最南端のカ·ラエ 岬、そしてハマクア地域のものである。

Philippe Nault Abstract Art: Terr Series
01222021 . 22 x 47 in (56 x 120 cm) Mud, Soils, and Acrylic on Paper . 2021
Philippe Nault Abstract Art: Terr Series
02052021 . 20 x 47 in (47 x 120 cm) Volcanic soils and acrylic on paper . 2021
Philippe Nault Abstract Art: Terr Series
02102021 • 47 x 22 in (120 x 56 cm) • Mud & Acrylic on Paper

茶碗の風景

テラの前のシリーズ「茶碗の風景」(Chawan Landscapes、2020年)も、地球の要素に関するもので、日本の茶道に使われる茶碗を作る伝統的な「楽焼」の芸術に関するシリーズである。

楽焼の芸術形式では、陶芸家と手と粘土の間における力、薪と火、様々な大気条件など、それらの関係性は愛の表現である。芸術家の個人的な美学的懸念を超越して、霊的な領域に入る。

ノールトは茶道を長年続けている中で、この哲学に没頭した。茶碗自体を描くことを意図した絵画ではなく、茶道で「手中の宇宙」として知られる茶碗の奥深い象徴が、作品の中で自然と表現された。お茶の緑の泡を囲む茶碗の丸い壁が開かれ広げられて、空や風景のように描かれている。

「茶碗の風景」シリーズは、原料のままの土と灰を塗料として使った彼の初めての試みで、そのためにこれらのいくつかの絵画が「テル」シリーズにも含まれている。

Philippe Nault Abstract Art
10072020 . 22 x 30 in (56 x 76 cm) Acrylic on paper . 2020
Philippe Nault Abstract Art: Chawan Landscapes Series
08222020, 22 x 30 in (56 x 76 cm) Acrylic on paper, 2020
Philippe Nault Abstract Art: Chawan Landscapes Series
03232021-2, 22.5 x 30 in (56 x 76 cm) Forest mud and acrylic on paper, 2021
Philippe Nault Abstract Art: Chawan Landscapes Series
01092021-7 . 22 x 30 in (56 x 76 cm) Volcanic soil and acrylic on paper . 2021

クムリポ

ハワイの神話によると、「クムリポ」(Kumulipo)という宇宙の暗黒から世界が具現化したといわれているが、これはハワイの創造を詠った聖なるチャント(詠唱)の名称でもある。

2016年にノールトが始めた作品のシリーズも、「クムリポ)と名付けられた。地面の自然の起状の上にキャンバスを置いて描かれた作品で、大きな筆跡からは、クムリポの詠唱で語り継がれる生命の源と生命体の繁殖のイメージが浮かび上がる。

クムリポのシリーズの創作作業においては、ノールトが特に関心ある二つの重要な視点と関連している。一つは、まずイメージを形作るために自然の地面の上に直に接することで、これは旧石器時代のフランスの洞窟地帯の側壁美術に関連づけられているる。もう一つは、ハワイの神話のクプア (kupua)の概念で、クプアとは時によって姿を変えて作用する神で、自然の主な力を通じて実際の存在として現れる。

Kumulipo Series: Philippe Francois Nault, Abstract Art
Kumulipo II . 45 x 84 in (115x215 cm) Acrylic on Canvas . 2016
Philippe Nault Abstract Art: Kumulipo Series
Kumulipo I . 96 x 52 in ( 245 x 130 cm) Acrylic on Canvas . 2016
Kumulipo III - Philippe Francois Nault, Abstract Art
Kumulipo III . 75 x 49 in (190 x 125 cm) Acrylic on Canvas . 2019
Kumulipo IV, Philippe Francois Nault, Abstract Art
Kumulipo IV . 60 x 60 in (150 x 150 cm) . Acrylic on Canvas . 2016